インタビュー
「ガスと異業種の情報誌 taskforce 21」2018年10月3日号掲載


インタビュー07
法改正や行政指導の
“真の意図”を知り判断すべき







半蔵門総合法律事務所 弁護士
 野﨑 修 氏

 タスクフォース21 の発足は、1996 年(平成8 年)の液石法改正(翌年4月1 日施行)・省令改正に対応し、牧野修三会長らが中心となって、複数の事業者で新交付書面について検討を開始したことを起点としています。その当時から、法律面でのアドバザーとして参画していただいている本会顧問の野﨑修弁護士にお話を伺いました。


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 法改正の目的は変わっていない

――電力・都市ガスの自由化議論の中で、2年前に液石法や省令の改正が行われました。タスクフォース21は、20年前の大幅改正にあたり、14条書面をはじめ契約のあり方についていろいろと議論してきたわけですが、今では当時の当事者は少なくなりました。あの頃の議論と、今の議論に違いはあるのでしょうか。

野﨑 基本的には何も変わっていないと思います。保安を担保した上での自由化を進め、取引の適正化ということで価格の低廉化を狙うという改正の趣旨は変わっていません。
 消費者との契約のあり方について、消費者の理解を得ずに設備貸与などが行われているという指摘に対応するため、14条の「お知らせ」と「契約書」をわざわざ別に掲載する14条書面なども作りました。最近は、その背景や意味を知らない業界人や、行政の担当者もいるように聞いています。
 平成になって、電力や都市ガスに限らず、通信、金融などさまざまな分野で自由化が進められました。こうした流れの中で、常に言われるのは「情報開示」と「説明責任」ということです。これがなければ自由化できませんし、また自由化での業者間競争で消費者を守るにも、この2つが重要です。
 自由化することで誰が得をするのかという議論はいろいろありますが、少なくとも建前では、自由化により消費者が利益を享受する。LPガスで言われている取引の問題、無償配管や設備貸与など投資部分と契約、料金の設定などについて「情報開示」と「説明責任」が求められるのも、その結果、消費者の負担分が減ったり価格が下がったりして、消費者利益につながるだろうと考えられているからです。
 料金表の公開、消費者からの問い合わせに対する説明と記録など、行政の指導やガイドラインにある事柄は、すべて「情報開示」と「説明責任」で括られます。それをやることで料金水準が下がってしまうと心配する向きが多いから、行政の思うようには進んでいないと見ることもできます。


 3.11で再び注目されたLPガス

――それは20年間ずっとそうだ、という感じがします。

野﨑 この20年間を振り返ってみると、東日本大震災の直前までは、LPガス業界は本当に危機だったのではないでしょうか。96年の改正後、業界内外で「悪弊」とされてきた無償配管について、消費者保護と言いながら、消費者を騙す切替ブローカーや、それを大量に雇う大手が客数をどんどん増やすという状況が続きました。行政は「小さな販売店はつぶれてもいい」「LPガス業界なんてなくなってもいい」と考えているのではないかと疑いを持たざるを得ない状況さえありました。
 けれども、3.11で変わります。電力と都市ガスだけでは家庭用エネルギーは賄えない。LPガスも大切だ。業界も健全な形で残そう……と、まあこれは私の想像ですが、少なくともLPガス業界をもう一度、全体として方向を定めて指導していこうというのが、ここ2、3年の法令の改正と指導になっている気がします。
 ガイドラインの最初の方に、「なお、標準的な料金メニュー等の公表に取り組んでいる液化石油ガス販売事業者は、一般消費者等が安心して液化石油ガス販売事業者を選択できる環境の整備に貢献しているものと認められる」と、わざわざ書いてあります。行政のいう「情報開示」と「説明責任」を果たす企業が残るのだ、と言っているわけです。


 料金は誰が決めるのか

――ここまで行政が個々の企業の料金に立ち入るというのは、すごいですよね。

野﨑 LPガスは自由料金だ」と言って、行政の指導に反発している人もいるようですね。「自由」であることは確かですが、ビジネスの場合、「だから他人に口を挟ませない」ということにはなかなかなりませんね。政治家が「携帯電話は4割下がる」と言い出して話題になっていますが、「下げてもあの業界はつぶれない」と見越してそう言っているのでしょう。
 ある日政治家やマスコミが「LPガスは○割下がる」と言い出さないとも限りません。もちろん、LPガスの場合、携帯電話と違って事業者数もものすごく多いですし、全国各地に存在しますから、一律にいくら下げてもいいという議論にはならないと思います。
 けれども、価格そのものに言及しなくても、何らかの枠で価格を下げさせる圧力は出すことができます。「情報開示」と「説明責任」の要請は、まさにそれだと考えることもできます。
 もちろん、「自由料金なのだから市場価格でいい」という考え方もあるでしょう。投資したものも総括原価で組み入れ、「うちはこの値段なんです」と料金設定し、「市場競争力がなくなったら値段を下げる」というのはどこの業種・企業もやっていることです。けれども、現在の状況でそれをわざわざ宣言してやっていくLPガス事業者はいるでしょうか。


 ビジネスとして有効かを判断する

――3部制を採用し標準的な料金を公開するしかない、という声もあります。

野﨑 タスクフォース21の例会でもお話しましたが()、「集合住宅の入居者はなぜ高いガス料金を払わなくてはいけないのか?」というクレームにちゃんと答えて、その内容を記録することが求められています。
 オーナーに貸与した設備代を入居者のガス代で回収しているなら、そのことを明記しろということです。それが3部制の採用で、96年の改正時にも議論がありました。また、3部制をとらず、基本料金、従量料金に含めてとっているなら機器の種類や月額費用の概算額を料金表に記載せよということになっています。
 一方で、「機器の設備費用は、ガス料金で回収しない」ということでやっていくなら、集合住宅と戸建住宅の料金の違いをきちんと説明できるようにしておかなければなりません。「お客様が利用されているエアコン、給湯器はうちが無償で設置して、費用を負担しているんですよ。そういうサービスがあるから高いんです」と説明した途端、液石法違反になってしまいます。「無償貸与しているから高い」と説明してはいけないということです。そうすると、3部制料金にしていた方が無難という判断になるわけです。


 理論武装と覚悟が求められる

――料金をどうするかは企業自ら考えることですよね。

野﨑 その通りです。行政が推奨するから3部制料金にする、ただそれだけで“良し”としてはいけません。注意しておかなければならないのは、例えば、3部制を採用すれば透明化を達成できると考えると、貸与していないところ、償却が済んだところの料金は下げないと、「不透明な料金」になってしまうことです。全社の投資を総括原価にすると考えれば、2部制でも良いという理屈になりますが、それをきちんと説明できるかどうか。
 いずれにせよ、どういう判断がビジネスとして有効か、それは個々の経営者が判断することです。行政の意向にいたずらに反発する必要はないでしょうが、自分たちの考えを持つならば覚悟を決めて臨まないとなりません。料金や契約の問題では個々の事業者への立ち入り指導もあるようですが、業界最大手が法律や行政指導の趣旨をどのように受け止め対処しているのかも見つつ、私たちは企業法務の立場で、顧問先の経営者の判断を支援していきます。

<プロフィール>
野﨑 修(のざき・おさむ)氏
1959 年( 昭和34 年) 福島県生まれ。東京大学法学部卒。
1991 年(平成3年)弁護士登録(43 期)。東京第一弁護士会所属。
半蔵門総合法律事務所パートナー弁護士。企業法務、民事・商事全般。複数の有力LP ガス事業者の顧問。業界研修会等での講演で活躍。


<半蔵門総合法律事務所 概要>
◇設立 2003 年(平成15 年)4 月
◇事務所所在地 東京都千代田区麹町1 丁目6 番3 号
        クレール麹町ビル 2 階・3 階・4 階
◇構成 日本法弁護士:21 名
◇ホームページ www.hanzomon.gr.jp




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