インタビュー
「ガスと異業種の情報誌 taskforce 21」2019年4月3日号掲載


インタビュー10
時流に乗った事業も見直しが必要
時代が必要としない事業は消える







株式会社 丸江 代表取締役社
 吉田 孝 氏

 いまや当たり前となったネット販売ビジネス。タスクフォース21 では20 年前にLPガス業界でのネット販売の可能性を探り、ガス機器販売サイトの実験として「G モール」を立ち上げた。その中心的役割を担っていただいた丸江の吉田孝社長に、過去の現在のネット販売ビジネスから今後の展開について伺った。


※もくじをクリックすると文章が表示されます


 価格だけでなく信用・実績も必要

――20年前にガス機器のネット販売を開始しましたが、その当時のこと、そして現在の状況を教えてください。

吉田 1990年代の終わり頃からインターネット販売がいろいろ出てきて、カナジュウさんが2000年の春からガス機器のネット販売を始めました。ぼちぼち売れてきていると聞いたので、当社もその年の12月から始めました。最初は自分でページを作って、半年ぐらいは自分1人でなんとかやっていました。すると売れる。500万円、1,000万円と増えていって、これはいいぞと翌年には楽天に店を出し、担当スタッフをつけてどんどんやっていったわけです。全国から注文がきて、メーカーの出先に設置を依頼しました。ただ、メーカーによっては地域ごとに工事費が違ったり対応ができなかったりと、最初のうちはいろいろ苦労もありました。
 売上はどんどん伸びましたが、しばらくすると、競争相手がたくさん出てくるようになってきました。北海道など全国の業者が参入してきましたが、多くは小規模の販売店さんのようです。当社のスタート時もそうでしたが、ガス機器の販売でいきなり1人で何千万円も売上が立つのですから、面白くて仕方ないのでしょう。
 でも、当社のように人を雇ってやっていこうとするとなかなか利益が出なくなってきます。ガス機器のほか、アウトドア用品なども取り扱い、楽天やヤフーに複数出店しました。ネット販売は価格勝負の要素も大きいですから、数年で億単位の売上になりましたが、人件費を差し引くとほとんど利益がないということが長く続きました。
 4~5年前、いくらやっても十分な利益が出ないなら、これは事業としては成り立たない、撤退しようと考えました。すると楽天本部から担当が飛んできて、貴社の場合は値上げしても十分勝負できるから利益をもっととってみてくれと言ってきました。当社の場合、販売実績が多いのでコメントの書き込みがとても多い。「値段は安いがコメントが1件」という店よりも、多少値段が高くてもたくさんのコメントが書き込まれている店が選ばれるという。
 それならば一度やってみて、それでもだめなら撤退しようと一斉値上げしました。すると売上は落ちましたが、利益は増えました。それなら続けようと現在に至っています。ネット販売は価格だけでなく、そういう信用と実績も大切なんだと知りました。もっとも、型番が変わればコメントゼロからのスタートですから大変ですけれど。


 時代に合わせて事業を変える

――ネット販売は事業の柱に育ったわけですね。

吉田 柱には決してなっていませんね。当社のネット販売売上は、ガス機器で9億円、アウトドア商品で5億円ぐらいですが、部門の人件費や経費を引けば利益はあまりありません。
 ネット販売ビジネスは、現状ではamazonや楽天などプラットホーム事業者だけが儲かると言われています。ここを本格的にやろうとすれば、億単位の投資を覚悟しなければできません。メーカー直のサイトや競合がない商品以外、「仕入れて売る」という商売で利益を出すのはとても難しい。
 けれども、現在は「ネットで買いたい」というニーズがありますし、他社のガスやエネルギーのユーザーと接点を持つこともできる。ですから、いろいろ工夫して赤字にならない限り続けたいと思っています。
 工夫しても赤字になるということは、その事業は世の中から必要とされていないんだ、と考えるべきです。時代が変わればニーズは変わりますし、商品の売り方も変わります。世の中に必要なら残るし、必要なければ撤退するしかない。

――丸江さんは小田原の老舗・江嶋さんが発祥ですね。

吉田 江嶋は城下町・小田原でお茶を販売する店として1661年に創業しました。358年続いています。これも世の中に必要とされたから続いたのだと思います。私の祖父の代、1953年にLPガス販売の丸江を設立しますが、江嶋もその後、事務機器販売など、お茶以外の事業を行っていました。た だ、お茶の卸や小売り、メーカー製造の事務機器を企業へ販売する商売などは、流通の変化などにより事業としては厳しくなってきました。
 現在、江嶋は丸江が親会社になり、お茶や海苔、紙の卸と小売販売をしています。業績は順調ですが、赤字になったらやめる、というつもりでやっています。会社を残していくには、時代に合わせて事業を変えていかなければなりませんから。
 時々、娘が住んでいるアメリカに行くのですが、アメリカで起きていることは何年かして必ずと言っていいほど日本で起きます。最近、気になっているのは例えばIoTのこと。アメリカでは既にネットを介したサービスがいろいろ出ていますが、水道・電気の検針ではお客様の回線を使ったりしません。AT&Tのモデムがついていて別回線です。LPガスの集中監視システムも含めて、日本もそういうふうになるのかな、とか。また、サービスでは「返品OK」が徹底している。不良品とか間違って買ったとかではなく、いらなくなったとか余ったとかでも返しに行くと、ほぼ無条件でお金を返してくれる。これが日本でもふつうになったら、売る側は返品リスクを加味した売値にしなければ大変です。


 「楽しい会社」で社会貢献を考える

――今後、力を入れていく分野は。

吉田 やはりLPガスの利益を上回るようなビジネスはなかなか出てこないでしょう。でも、このビジネスも発想を変えた試みで大きく変えることができるかもしれません。それと、ガス取引での信頼をもとにしたサービスというのは、いろいろと考えられると思います。高齢化社会に対応した生活サービスなどで、「家に上がり込む」仕事は、お客様とほどほどの距離感がある我々に向いているのではないでしょうか。
 現在の事業としては、利益貢献ではそれほどでもありませんが、キャンプ場運営の事業が企業イメージアップに貢献しています。ファミリーから企業研修まで、いろいろな方に利用していただいています。ドローンを駆使したWebでの紹介映像などが地元の若い人にもよく観られているようです。合同会社説明会などでは、いつも当社にたくさん人が集まりますが、「楽しい会社」というイメージがあるようですね。
 アウトドア商品のネット販売やキャンプ場運営は、それが好きな社員が楽しんでやっています。ビジネスですから赤字を出さず、少しでも多くの利益を出すという考えで臨まねばなりません。ただし、企業は金儲けばかりを考えればいいというわけではありません。そういう観点からは、今年はゴミの問題をみんなで考えようと社員に言っています。
 海洋汚染で世界的な問題となっているマイクロプラスチックのことなど、ゴミの問題は地球規模で考えることです。昨年のG7では、海洋ゴミ削減に日本とアメリカが署名しないということがありましたが、小さな力であっても自分たちのできることをやっていくべきではないかと話しています。例えば、江嶋の店舗ではビニール袋はやめる、とか。地球の将来を考えることは大事ですし、ビジネスを進めるうえでも常に社会のことを考えることが大切だと思います。

<プロフィール>
吉田孝(よしだ・たかし氏)
1947年(昭和22年)4月13日生まれ。異業種を経験後、27歳で丸江に入社。直売の新規開拓や機器の施工などからLPガスの仕事を覚えたという。1999年(平成11年)11月、代表取締役に就任。


<株式会社 丸江 会社概要>
 1953年(昭和28年)創業の神奈川県内で最も古いLPガス販売事業者の1社。現在は、LPガス・電気などエネルギー事業を柱に、キャンプ場・キャンプギア専門店運営を行うアウトドア事業と、インターネットを通じてガス器具・キャンプ用品・オフィス家具を販売するECサイト運営事業を展開。また、350年以上続く、日本茶と海苔の老舗店運営を通し、小田原の伝統を守る倭紙茶舗 江嶋も傘下として続けている。

代表取締役社長 吉田 孝
所在地 神奈川県小田原市栄町2丁目13番6号
電話 0465-22-6116
事業所 扇町(小田原)、海老名、秦野、南足柄、伊東




トップページへ