第151回タスクフォース21
2022.6月例会

講演録

経営者交代の失敗例から見る事業承継の難しさ~ロッテの事業承継がなぜ失敗したのか~

講師:経済ジャーナリスト 松崎 隆司

動画ダイジェスト版

はじめに

 経済ジャーナリストの松崎隆司です。本日は「経営者交代の失敗例から見る事業承継の難しさ」についてお話させていただきます。

 同族企業による事業承継については、さまざまな視点があると思います。今回は、創業者の意思を後継者につないでいくことがいかに重要であるかという視点から、議論を展開していきたいと思っています。また、社内クーデターがどのようにして起こるのかを分析していきます。

 ちなみにロッテは、一連の騒動に関してはクーデターという認識はなく、見解の相違があることを付け加えておくとともに、今回の講演のなかでは敬称を省略させていただきます。

ロッテと創業者・重光武雄

ロッテとは

 まず、ロッテとはどのような会社なのでしょうか。本社は東京・新宿の初台にあります。在日韓国人である重光武雄が一代で創業し、日韓にまたがる財閥に成長した企業です。2019年のピーク時には7兆円近くの売上がありました。日本では“お口の恋人ロッテ”というキャッチフレーズで知られる大手総合菓子メーカーで、グリーンガムやガーナチョコレートなどが有名です。

 一方、韓国では製菓事業にとどまらず、ホテルや百貨店、スーパー、コンビニ、ロッテワールドといった観光流通産業の始祖として発展してきました。このほかにも飲料、化学、建設などを展開するコングロマリットとして韓国の5大財閥の一角を担っています。

重光武雄とは

 こうした巨大企業ロッテを創業した重光武雄とはどんな人物だったのでしょうか。武雄は1922年10月4日に朝鮮慶尚南道蔚州郡で誕生します。家は代々続く両班(ヤンバン)であり、幼いころから儒教の影響を強く受けていました。家は貧しかったのですが、事業に成功した伯父の支援で小中学校、農業の実習学校などを卒業しています。小さいころから本を読むことが大好きで、日本に憧れる少年でした。

 両班というのは、韓国の特権階級をいいます。儒教の影響を強く受けていますから、金儲けをすることを嫌います。しかしこの伯父というのは、両班でありながらも事業に成功します。その後ろ姿を見て育った武雄は、渋沢栄一の『論語と算盤』で描かれているような思想を自然と身につけていきました。

 農業の実習学校を卒業すると種羊場に勤めますが、両親が決めた許嫁と結婚をします。ただ日本への思いを断ち切ることができず、親の反対を押し切って日本に渡ります。その後、早稲田実業学校、早稲田高等工学校を卒業し、事業を始めました。

 事業を始めた時期は終戦直前くらいです。事業を始めてすぐに戦火に巻き込まれ、二度にわたって工場を焼失しています。戦後は、ひかり特殊化学研究所というものを立ち上げ、せっけんやポマードを販売し、かなりの収益を上げます。

 そこからガムの事業に進出するのですが、ここで社名をロッテに変更。ガムに特化して、本格的にスタートしました。これがヒットし、業界のトップシェアを獲得するようになります。

 そして、製菓業界では大手にしかつくれないと言われていたチョコレートに、まだ中小企業であったロッテが進出します。ここでもトップシェアを獲得し、さらにアイスクリームやキャンディ、ビスケットなどの総合製菓企業に成長していくわけです。

 1958年には、製菓事業で韓国にも進出しますが、さらに………本文の続きを読む>>>

津田氏の視点についての整理/LPガスの可能性 富士瓦斯の取り組みから

講師:エネルギー事業ジャーナリスト 角田 憲司
   富士瓦斯株式会社 代表取締役社長 津田 維一

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(角田氏)12月講演の振り返りとまとめ

 今日は津田社長をお呼びして、お話と対談をさせていただく予定です。私・角田からはその前段として、12月例会で津田社長がお話した2050年カーボンニュートラルの未来についてリマインドをしていきます。そのなかで、料金の在り方についても考えていきたいと思います。

 12月例会では、津田社長から未来の課題として4つの問題提起をしていただきました。1つ目の論点は、市場が半減した場合のサプライチェーンの維持です。いまの輸入LPGのサプライチェーンをどうするべきか。当然、量が減ればそういう問題が出てきますし、老朽化している輸入基地のインフラ整備をどうしていくのか、そして並行してグリーンLPGのサプライチェーンをどうつくっていくのかという問題もあります。

 また、市場が半減するから仕方ないということではなく、その減少を可能な限り抑制するにはどうしたらいいのか。カーボンニュートラルに向けて電化が踏み込んでくるでしょうから、それにどう対応するか。人口減少、過疎化が進んでいけば顧客密度も低下しますから、それによるコスト増にどう対応するか。質量販売についても、こういったことに絡めて、近未来的にアジャストできるかどうかを考えていくことになると思います。

 2つ目の論点は、カーボンニュートラル対策です。グリーンLPGはまだ開発途上でハードルが高いというお話でした。当面、クレジットによるオフセットしか方法がない。国でも少しずつ動き出してはいるものの、これからの20~30年の間は、それに資する………本文の続きを読む>>>

(津田氏)はじめに

 半年ぶりにタスクフォース21でお話しさせていただきますが、前回のお話からそこまで大きく変わっているわけではないことをご了承ください。角田さんにご説明していただき、さまざまな論点をまとめていただきました。本日は質量販売の話をしてほしいということだったので、それを中心にお話しさせていただきます。

 質量販売ということで、まず液石法のご説明をしてもよいのですが、皆様はあまりご興味がないのではないかなと思います。なので、そもそも質量販売にご興味を持っていただいて、その後に出てくる法的な疑問点については、別の機会や、直接のお問い合わせをしていただければと思います。本日は、取り組みについてご紹介いたします。

 まずはLPガスの特性と質量販売、そして質量販売の課題、最後に質量販売の需要開発のお話をしたいと思います。

LPガスの特性と質量販売

LPガスの3大特性

 LPガスには3つの大きな特性があります。LPガスの一番の魅力は、メタンガスなどに比べて非常に物性が優れているところだと思っています。

 まず低い圧力で液化できることで、可搬性に優れています。
 そして配管を組まなくてもいい簡易性です。「いますぐ持ってきて」と言われたら、持って行ってすぐに使えるというところ。
 また、配管がないので安全性も高いです。「LPガスは危険です」と、LPガス事業者の方が自ら言っていて驚くのですが、都市ガスに比べてはるかに安全性が高いエネルギーです。問題は、LPガス事業者が安全かどうかというところなのです。きちんと保安業務をしていれば大丈夫なのですが、そこを怠ってしまうと爆発もしますし、COも出てしまいます。安全性は一定の要件のもとに確保されますが、それでも圧力が高くないというところから、水素などよりも非常に安全だと思います。
 それに、「漏れたらバルブを閉めればいい」という画期的な良さがあります。都市ガスだと、漏れている場所を特定するだけでもかなりの手間がかかりますし、周辺すべてのガスが止まってしまいます。その点、LPガスはバルブを閉めるだけで止められるので、すばらしいエネルギーです。

 こういったことはよくご承知だと思いますから、もっともっと考えていくと、需要が広がっていくと思います。

3大特性がもたらす二面性

 LPガスには、これらの特性がもたらす二面性があります。「過渡的エネルギー」としてのLPガスと、「補完的エネルギー」としてのLPガスです。あまり言葉はよくないかもしれませんが、過渡的エネルギーとしては………本文の続きを読む>>>

LPガス事業のこれから 質量販売から考えるLPガスの可能性

講師:津田 維一 氏 × 角田 憲司

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質量販売は消費者側からの要望!?

角田氏:本日の津田社長のお話をもとにいろいろとお聞きしたいと思います。私は都市ガス出身ですから、皆様よりも質量販売のイメージが薄いかもしれません。「なぜ質量販売をやりたがらないのか」というところでは、“容器売り切り”というイメージがあって、その容器管理の不安があるという話もありました。富士瓦斯さんは、そのあたりどうされていますか?

津田氏:我が社では、原則、容器販売は禁止です。これは現場から反対がありました。なぜ現場は容器を売りたがるのでしょうか? それは責任がなくなるからです。液石法上、容器管理の責任はその所有者にあります。ですから、所有している会社の名称が載っていますよね。売り切りの場合、無印の容器になります。お客様が自分で所有者名を記入しなければならないのですが、意識の低い現場の人は売りっぱなしです。一方、意識の高い事業者の場合は「そんなことはするな」という話になる。それで「質量販売はやめよう」となってしまうわけです。
 我が社では容器使用料、レンタル料を取っています。いまはなきレンタルビデオ店と同じです。延滞料を取っていくイメージです。本来は一時使用として「3日間で返します」などとしますが、返ってこなければ、容器代がかさみ、売掛金になっていきます。売掛金になれば、現場は動きます。

角田氏:なるほど。積極的だろうが、消極的だろうが、質量販売をしているところは容器の売り切りはしていないのでしょうか?

津田氏:いえ、ほとんどが売り渡しているのではないでしょうか。

角田氏:えぇっ。

津田氏:責任を負いたくないわけです。ところが、液石法はついてまわります。容器自体ではなく、販売した責任は残りますからね。当然、供給開始時点検はしたのか、4年に一度の点検をしているのか、など。ただ小型容器の場合、お客様がいろいろな充填所で充填する場合がある。たとえばキャンピングカーで全国をまわったり、移動販売車でさまざまな場所に行く。そうなると、いったい最後に充填したのはどこなのか、という話になってしまう。こういったことが、法的な不備です。法令上、はっきりしていないのが問題だと………本文の続きを読む>>>