エネルギー業界ニュース

本橋恵一の「これからのエネルギー事業を考えよう」

本橋 恵一:環境エネルギージャーナリスト/コンサルタント・H Energy日本担当カン トリーマネージャー
エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者などを経て、電力システムや再エネ、脱炭素のビジネスモデルなどのレポート執筆、講演などで活躍。著書に『電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本』『図解即戦力 脱炭素のビジネス戦略と技術がしっかりわかる教科書』ほか。

連載66:SDGsって環境だけじゃない連載65:愚策によって周回遅れになる日本連載64:北海道はヨーロッパだと考えてみよう連載63:サービスステーションの将来連載62:原子力のためのエネルギー基本計画連載61:キャッシュレスとDX連載60:ウクライナ、パレスチナとエネルギーの世代交代連載59:生物多様性と除草しない太陽光発電連載58:インターナルカーボンプライシングって何?連載57:カーボンクレジットの限界連載56:ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジット連載55:カーボンニュートラルLPガスとカーボンクレジット連載54:今年の再エネのトレンドは24/7なのである連載53:グレイスラム連載52:みんなが集まるところに答えはない連載51:COP28とグローバルストックテイク連載41〜50連載31〜40連載21〜30連載11〜20連載1〜10

連載66(2024.7.22)

SDGsって環境だけじゃない

 東京都江戸川区には、ちょっとユニークなSDGsのアプリがある。
 といっても、全体的には、それほどユニークな感じはしない。

 どんなアプリかといえば、SDGsに関する行動をとることで、ポイントがたまるというしくみだ。たまったポイントは江戸川区内の飲食店で使える。
 SDGsに関する行動といえば、マイバッグを持参する、省エネする、健康のために運動する、といったようなことだ。ボランティア活動でもポイントがたまる。それでも、江戸川区の温室効果ガス削減にはそれなりに役立つし、区民への啓発にもなる。

 でも、ユニークなのは、もっと別のところにある。
 実はこのアプリのベースとなったのは、認知症の行方不明者を探すためのアプリなのだ。

 実は認知症者の行方不明者は毎年1万人を大幅に超えている。見つからない人も数百人規模だ。とはいえ、行方不明者を探すのは、警察だけでは十分ではない。地域住民の目を有効に使うことが重要だ。
 こうしたことから、あらかじめ認知症を探すボランティアを登録しておき、行方不明者が発生したら、どのような外見なのかなどを、専用ページで知らせる。ボランティアは、探すというより、通勤通学や近所への買い物、散歩などで注意してみてもらうだけでいい。それでも、けっこう発見される。

 残念なことに、認知症の行方不明者を探すアプリではどうしても登録者数に限界があった。そこで、SDGs全体にテーマを広げたということだ。結果として、登録者が大幅に増加したという。
 登録者だけではない。協力してくれる店舗の存在も大きい。
 結局のところ、やっていることは、地域住民のネットワークづくりなのだ。

 SDGsというと、どうしても気候変動問題ばかりに、あるいはせいぜいサーキュラーエコノミーにばかり関心が行く。省エネやマイバッグ持参をしていればSDGsなのか、というような風潮すらあるのではないか。
 しかし、SDGsの17の目標の中には、地域社会をつくっていくというものもある。暮らしやすい、持続可能な地域社会をつくっていくことも大切なことだ。

 エネルギー事業者というと、どうしても脱炭素化ばかりに目がいってしまうだろう。しかし、地域に根差した事業者という風に考えていくと、むしろ地域のネットワークに積極的にかかわっていくことが求められるのではないだろうか。それもまた、SDGsに向けた取組みだといえる。

連載65(2024.7.8)

愚策によって周回遅れになる日本

 電力・ガスに対して激変緩和措置ということで政府が補助金を支出してきたが、5月で終了した。ところが8月から再び3か月限定で復活するという。暑い夏でも安心してエアコンを使ってもらうため、だとか。でもこの補助金、岸田首相の人気回復以外の理由が思い当たらない。そして何より、この補助金は問題が多い。日本が脱炭素化に向けて周回遅れになるからだ。
 一方、ガソリンに対する補助金は終わる気配がない。

 確かに、さまざまなものが円安などの理由で値上げされる一方、賃上げは実質では追い付いていないので、庶民の生活は苦しくなる一方だ。だから、生活に不可欠なエネルギーの値上げが抑制されるのは、短期的には庶民にとっては歓迎すべきことだろう。
 もちろん、補助金に使われたお金は税金なので、将来は増税されるのではないか、と不安視する声もある。でも、問題の本質はそこではない。

 まず、押さえておきたいのは、気候変動枠組み条約では、化石燃料の補助金のフェーズアウトが求められているということ。化石燃料の消費抑制のためには、非化石燃料へのシフトが求められる。
 その点ではガソリンへの補助金はともかく、化石燃料の価格上昇による電気代・ガス代の上昇への対策という点では、いずれも化石燃料の補助金に他ならない。
 こうした日本の政策は、実際に昨年のCOP28(気候変動条約第28回締約国会議)でも指摘され、批判されていた。

 その上で、こうした補助金は一時しのぎにすぎず、脱炭素化に対してはマイナスだ。例えば、住宅用や産業用の太陽光発電によるPPA事業を考えると、需要家にとっては補助金の分だけ、導入のメリットが小さくなることが指摘できる。自宅の太陽光発電からの電気には補助金はつかわれない。
 これはガソリンも同様で、ただでさえ遅れている日本の自動車産業のEV化が、さらに遅れることになる。海外ではEV化が減速していると言われているが、大きなトレンドとしては、EV化は止まらない。

 電力・ガスとガソリンに対しては、これまで10兆円以上の国費が使われている。これらは結果として何も生み出していない。
 政策的に失敗だったといわれているFIT(固定価格買取制度)でも、全国に太陽光発電を増大させ、化石燃料の価格上昇を多少は緩和してきた。
 10兆円を、EV導入や充電設備の導入、再エネ導入や省エネ促進に使っていれば、脱炭素化は進めることができたし、その効果は持続的だ。

 電気代やガス代、ガソリン代の値上がりが生活を苦しくしているというのであれば、最低限の補助金でよかった。電気であれば、3段階料金の最初の120kWhまでは補助する、といったことも可能だったはずだ。公共交通を守るために、公共バスに限ったガソリン代の補助という方法もあっただろう。エアコンを安心して使ってもらうためには、買い替えの促進が効果的だったはずだ。

 欧州では化石燃料の価格上昇に対しては、基本的に補助金は使われていない。そのため、日本よりもはるかに高い電気代やガス代、ガソリン代となっている。もちろん庶民はこうした値上げに対して苦しんでいる。それでも、どうにか乗り切ってきたし、現在は化石燃料価格も落ち着いている。

 日本でも、5月で電力・ガスの補助金を一度終わらせたのは、化石燃料の価格が落ち着いているからだ。補助金が終わった反動と、特に電力については再エネ賦課金が2円/kWhも上昇したことで、電気代は5円/kWh以上も上昇した。それでも、各社の燃料費調整制度はマイナスになっているので、元の電気料金に戻った、ということだ。

 今回の電力・ガスの補助金復活は、首相の独断で決まったとも言われている。経済産業省は何も聞いていなかったとも。
 いずれにせよ、こうした近視眼的な政策が、将来を誤ったものにさせる。そうした事例は、実はいくらでもあるような気がする。

連載64(2024.6.20)

北海道はヨーロッパだと考えてみよう

 前回に続き、北海道の話。
 札幌の住宅街を歩いていると、東京ではまず見ないものを目にする。灯油タンクである。北海道の人にとってはあたりまえだけれど、暖房や給湯のためには、このくらいの灯油を使っている、ということである。
 筆者もそうだが、本州以南に住んでいると、どうしても脱炭素化をその基準で考えてしまう。でも、むしろ欧州(ヨーロッパ)の基準に近いのかもしれない。

 欧米では、セントラルヒーティング式の暖房・給湯を使っている世帯が多い。家が広いというのもあるし、ヨーロッパの冬は寒い。そのため、これまでは主に天然ガスが使われてきた。まあ、米国では電気温水器(ヒートポンプ式ではない!)もずいぶん普及している。
 しかし気候変動対策として、これをヒートポンプ式に交換していこうとしている。大きなエコキュートと思ってもらえればいいだろう。そのためには、英国は補助金を出しているし、ドイツでは再エネ賦課金についてガスの比重を高くしている(ガスにも再エネ賦課金がかかっている!)。

 ヒートポンプといえば、日本のメーカーに優位性があるはずだ。日本は遅れているという話はエネルギー業界でもよくされるが、ヒートポンプについては先進国のはずだ。
 ところが、海外のニュースサイトを見ていると、ヒートポンプとして紹介されるのは、例えばLGなど、日本以外の製品を目にすることが多い。もちろん、ダイキンや三菱重工業がこの分野で海外で売り上げを伸ばしていることは知っている。でも、それでも存在感がない、ということだろうか。
 それに、こうしたことはあまり日本では報道されていない。ガス会社に気を遣っているわけでもないだろう。
 もっとも、日本のエコキュートでは欧米では小さすぎるのだろう。

 でも、北海道だったらどうだろうか。欧米で使われているようなセントラルヒーティング向けのヒートポンプを入れることができるのではないだろうか。
 幸いなことに、北海道は再エネが余っている。しかも、風力発電のポテンシャルが高い。おかげで、データセンター誘致という話がたくさん出ているが、そこはむしろ、北海道の再エネ電化住宅だろう。調理はガスでもいいと思うけど、でも全体としては欧米仕様でいけるのではないか。

 北海道は人口密度が低いといわれているけれど、そもそも欧州だってオランダなど一部をのぞけば人口密度はけっこう低い。米国はなおさら。そう思うと、北海道は欧州だと考えて、事業モデルを考え直す、ということもあってもいいのではないだろうか。
 そうして、北海道が日本の最先端の地域になってもおかしくない。そんなこともかんじるのだ。

連載63(2024.6.3)

サービスステーションの将来

 先月末、北海道のLPガス会社の方々と話をする機会があった。そこから感じたことなどを紹介したい。

 まずは、ガソリンスタンド(サービスステーション)の将来だ。
 今でも減少傾向にあるガソリンスタンドだが、EV化が進めばさらに減少していくことは明らかだ。では、どのように事業転換をしていけばいいのだろうか。

 bpのケースを紹介する。
 bpでは、コンビニエンスストアの買収やカフェ併設の充電スタンドの整備を進めている。
 EVの充電は基本的に自宅でできる。どうしても充電が必要な場合のみ、充電スタンドを利用する。例えば長距離のドライブなどだ。とはいえ、急速充電器といえども、充電にはそれなりの時間がかかる。そこで、カフェ併設となる。
 急速充電器は設備費用が高いわりには、電気代ではあまり儲からないだろう。だとしたら、別の付加価値が必要になる。
 カフェについて言えば、bpでは充電するとコーヒーが半額になる。それでもコーヒーで儲かるのかもしれない。
 また、コンビニエンスストアを併設することで、bpのクレジットカードが利用される。カードの売り上げもさることながら、顧客の購買データも得られる。

 別の視点でも考えてみる。例えば、ブティック化だ。
 この30年くらいの間に、酒屋がものすごく減少した。規制緩和によって、コンビニや量販店でお酒を売るようになったので、酒屋がほぼ成り立たなくなった。
 でも、生き残っている酒屋もある。例えば、日本酒やワインの専門店(ブティック)になることだ。専門店化すると同時に、商圏を10倍くらいに拡大する。10軒のうち9軒がつぶれても、残った1軒は専門店として生き残る。
 店舗以上に、業務用で飲食店に質の高い日本酒やワインを販売することができれば、残っていくことができる。
 一部のガソリンスタンドをそのように専門店化することも、1つの案だろう。エンジン車のファンのために、バイオガソリン専門店になる、とか。

 専門店化しても、9軒がなくなってしまう、と思うかもしれない。確かに、それを食い止めるのは簡単ではないだろう。でも、10軒のガソリンスタンドを10軒の異なる専門店にしていく、というのは、挑戦してもいいことかもしれない。
 幸い、時間はある。いろいろと考えてみてはどうだろうか。

連載62(2024.5.21)

原子力のためのエネルギー基本計画

 第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論がスタートした。エネルギー業界においては、それなりに注目することではある。でも、正直なところ、何かすごい計画が策定されるような気はしない。むしろ、民間においては、基本計画に惑わされずに事業を進める方が大事だ。

 今回のエネルギー基本計画では、およそ14年ぶりに、新しい年度の目標が設定されるはずだ。2010年の第3次エネルギー基本計画から2020年の第6次エネルギー基本計画まで、目標年度はずっと2030年度に設定されたままだった。さすがに今回は、2040年度の一次エネルギー供給と電源構成の目標が示されるだろう。
 とはいえ、CO2など温室効果ガス排出削減目標は、2035年66%削減となる見込みだ。では、2035年の一次エネルギー供給と電源構成はどうなるのか。おそらく示されないだろう。
 理由は簡単だ。経済産業省のメンタリティとして、温室効果ガスの削減目標にとらわれたくない、すなわち環境省に縛られたくないからだ。

 政策の方向もだいたい見えている。G7環境相会合で合意したように、「何の対策もとっていない」石炭火力発電所は全廃である。しかし、アンモニア混焼やCCSを行えば、運転は可能だ。日本の場合、CCSの適地は少ないので、メインはアンモニア混焼(一部専焼)だろう。
 原子力の新増設は2040年度には間に合わないだろうが、2050年カーボンニュートラルに向けて、推進の方向性が示されるだろう。関西電力美浜原子力のリプレイスと九州電力川内原子力の増設が視野に入ってくる。そしてSMR(小型モジュール炉)や高温ガス炉などの新型の原子力発電も準備されることになる。

 再生可能エネルギーについていえば、老朽石炭火力発電にとってかわるのが洋上風力発電だ。基本的には着床式の開発を進めつつ、浮体式の技術開発も行っていく。
 太陽光発電はペロブスカイト型を軸に屋根上などを充実させていくことになるかもしれない。

 2035年には新車は電気自動車かハイブリッド自動車ということになるが、2040年の段階では電気自動車が中心になってくるだろう。それだけガソリン需要は減少する。
 逆にデータセンターの需要増もあって、電力需要は伸びることになる。

 LPガスについていえば、残念ながら減少というトレンドは変わらない。2040年時点でLPガス自動車そのものが残っているかどうかもわからない。あとは、政府が欧米のようなオール電化を推進するかどうかということになる。
 エコキュートに代表されるヒートポンプ式給湯器は、日本ではかなり普及しているものの、まだまだ拡大の余地がある。ただし、日本のメーカーにとっては、より大きな海外市場の方が重要になっている。もっとも、あれだけ日本でオール電化キャンペーンをしてきたのに、海外では日本製よりも韓国製が登場することの方が多い。米国で使われている代表的なメーカーがLGだったりする。というのは、余談だけど。

 さて、ではこうした予想されるエネルギー基本計画のどこが問題なのか。
 最大の問題は、ちょっと難しそうな原子力発電と石炭火力発電のアンモニア混焼による脱炭素に期待しすぎることだ。再稼働さえ見込みの半分もできていない原子力発電にどれほど期待できるのか。建設コストが高すぎて旧一般電気事業者は建設する意欲がないとも言われている。アンモニア混焼もグリーンアンモニアの調達から燃焼時のNOxの抑制まで、課題が多い。
 そして、これらの技術開発に依存した結果、他の脱炭素政策が進まないことが問題となる。国境炭素調整によって輸出産業の競争力が弱められることや、そもそも産業立地で不利になることがあるだろう。国際社会の中で、脱炭素化が進まない国として、大いに批判を浴びるかもしれない。
 何より、産業の脱炭素化への移行が進まないことになる。

 ただでさえ、GXリーグのやっていることが、欧州から見れば周回遅れ、というか中国から見てさえ周回遅れの感があるのだから。
 したがって、日本の民間企業においては、エネルギー基本計画に惑わされず、世界の潮流の中で自社がどのような展開をすれないいのか、きちんと考えておくことだ。
 これは、LPガス会社も例外ではない。

連載61(2024.5.7)

キャッシュレスとDX

 世の中、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する声であふれている。GXについては、エネルギー事業者にとって極めて重要だし、取り組まないという選択肢はない。

 さて、DXの方はどうかといえば、何となく重要性はわかっていても、進まない、そう考える企業は多いのではないだろうか。中小企業ほど、DXのハードルは高い。例えば、顧客データの管理をきちんと行えば、マーケティングにも生かせるし、業務も効率化できる、と言われても、システム導入のコストはかかるし、スタッフがシステムになれる必要がある。だったら従来のままでいい、ということにもなってしまう。
 あるいは、経営者がDXと言い出しても、現場がついていかなかったりする、そんなこともあるのかもしれない。
 結論を言えば、DXは必要なところからやればいい、そう考えている。

 日本はキャッシュレスが進まない国だと言われている。隣の韓国に行くと、ほとんどのお店でクレジットカードなどがあたりまえで、現金を使うのは屋台くらいだ。
 海外旅行をすると、現金を使わないので、通貨の交換はほとんどしなくなっている。  その点、現金ばかりつかっている日本は、世界の潮流から遅れている、ということだ。

 しかし、本当にそうなのだろうか。むしろ日本は現金が便利すぎるということではないだろうか。
 例えば、スーパーには現金が優遇されているチェーンは少なくない。
 最近急成長しているロピアは、クレジットカードが使えないという。同じく安売りで有名なOKストアは会員だと現金で3%値引きする。Odakyu OXはクレジットカードだとポイントはつかないし、Ozekiでも現金はポイント2倍だ。
 スーパーに限らず、K’sデンキのように現金値引きを行う電器店もある。

 クレジットカードで決済をすると、店舗側はカード会社に手数料を支払うことになる。店舗や業種によって異なるが、だいたい1%~5%といわれている。また、現金が入ってくるまでに時間もかかる。
 それでも店舗がクレジット決済を可能にしているのは、顧客が買いやすくすることと、現金を扱わずに済むことによる業務の効率化のためだ。
 しかし、特に後者の場合、業務効率化するよりも、現金を取り扱う人件費の方が安かったら、経営者にとってクレジット決済を可能にする理由は減る。また、その分、値引きにまわすことで顧客を増やすこともできる。
 そうだとしたら、現金を優遇した方がいい。

 キャッシュレス決済には、他にも〇〇Payといったスマホ決済や交通系を含むICカードでの決済もあるが、いずれも限られている。特に〇〇Payは、手数料こそ低いものの、店舗にとってはレジでの手間がかかっており、時間的にはロスになっているのではないだろうか。
 特にカードもスマホも不要な現金は、犯罪が少ない日本ではとりわけ便利だともいえる。つまり、日本はキャッシュレスにするためのコストが相対的に高いということになる。

 だからといって、日本がこれから先もキャッシュレスにならないとは思わない。ただ、他国以上に便利で低コストにならないと、キャッシュレス化が進まないということだ。逆に、そうであっても現金を持ち歩かなくてすむので、それなりにキャッシュレスは進んでいるともいえる。

 政府のマイナンバーカード普及策が間違っているのは、マイナンバーカードの利便性を十分に伝えることができず、むしろ不合理さばかりが目立ってしまっているからだ。にもかかわらず、強制的に普及させようとするのは、反感をかうだけである。本当に便利なものになれば、強制しなくても普及していくはずだ。特に保険証の場合、プライバシーへの配慮を前提として、医療カルテの共有化は、けっこう重要になってくるはずだ。もっともそれもマイナンバーカードがなくても可能なのだが。

 これはDXも同じことだ。メリットがきちんと認識されれば進むことだ。業務が効率化され、労働時間が短くなり、あるいは顧客情報や設備情報が適切に管理され、顧客のニーズに応えやすくなり、あるいは事故を防ぐことができればいい。そのために、適切な経済コストや労務コストであればいいということでもある。
 そのことを見極めながら進めていくことが必要だ。

連載60(2024.4.22)

ウクライナ、パレスチナとエネルギーの世代交代

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2年以上、イスラエルによるパレスチナ侵攻が始まって半年以上がたつ。どちらも終わりが見えず、毎日流れるニュースには、憂鬱な気分になる。
 そしていずれも、エネルギーと無関係ではない。

 ロシアがウクライナ侵攻を行った理由の1つは、ソビエト連邦解体後のロシアが、石油やガス以外の産業を育てられず、国そのものが疲弊した中で、プーチン大統領が政権を維持していくための判断だった。特に米国がドイツとロシアを結ぶガスパイプラインの使用を認めなかったことは、引き金の一つとなっていた。シェールガスを有する米国にはダメージはなかったものの、欧州は短期的なガス不足に見舞われた。
 結果的に、ロシアの石油やガスを中国やインドなどが購入し、欧州も調達先の変更や暖冬などの影響もあって、需給はとりあえずおちついている。
 残ったのは、終わりの見えない戦争だけだ。

 イスラエルによるガザ侵攻は、イスラエルがガザ沖の海底油田の開発を行うという目的があるともいわれている。
 また、汚職事件で訴訟を受けているネタニヤフ首相が政権を維持するために戦争を続けているという見方もなされている。実際にネタニヤフ首相のイスラエルでの支持率は、日本の岸田首相とあまり変わらない。
 イスラエル各地で、ネタニヤフ退陣を求めるデモが起きている。

 さらに、イスラエルがシリアにあるイラン領事館を攻撃したことをきっかけに、イランがイスラエルを直接攻撃した。このことが、中東での戦争の拡大につながることが懸念されている。その結果、一時的に原油価格は上昇した。
 さらにイスラエルがイランに報復攻撃を行ったことで、中東情勢は一気に緊迫化しそうだ。

 そもそも、パレスチナ問題の発端は、第二次世界大戦後の1948年にユダヤ人問題を喀血するために、パレスチナにユダヤ人を入植させ、国家を創設したところから始まる。以降、パレスチナ人は土地や自由を奪われたままだった。ヨルダン川西岸ではユダヤ人の入植が進められ、ガザ地区では人々の自由は奪われたままだった。そうした中での、2023年10月7日のハマスによる攻撃には、一方的に責めるようなことではない。

 結局のところ、パレスチナ問題は欧米が作り出した問題だったし、しかもその解決についてはずっと見ないふりをしてきた。ユダヤ人ロビーの影響が強い米国、イスラエル国家創設前までこの地域を統治してきた英国、反ユダヤ主義はタブーとなっているドイツなどが、イスラエルを支援し続けた。

 イスラエルに対して強く圧力をかけられない欧米に対し、グローバスサウスとよばれる国々はイスラエルを強く批判し、南アフリカは国際司法裁判所に提訴を行った。
 どんなにきれいごとをいったところで、欧米が「自分たちが作り出した問題」を解決できないことが、明確にされてしまったといえる。

 一方、米国が明確なのだが、ユダヤ人ロビーの力によってイスラエルへの制裁にまで踏み切れないでいる政府に対し、とりわけ若い世代がパレスチナ支持を強く主張し、こちらもデモが起きている。民主党の中で分裂しており、若い世代ほどパレスチナを支持している。そのため、バイデン大統領はどっちつかずのまま、有効な施策を打ち出せないでおり、大統領選挙にも大きな影響を与えている。
 これはドイツなどでも同様で、イスラエルを非難する若い世代のユダヤ人に対して反ユダヤのレッテルを貼るようなことにまでなっている。

 これは、戦争だけの話ではない。気候変動問題においても、同じ光景をさんざん見てきている。
 二酸化炭素を排出し続けた欧米が責任を取り切れていない、というのが、気候変動問題の本質の一つである。しかし、温暖化した未来を生きなければいけない若い世代は、そのことに異議を唱えている。
 パレスチナ問題についても、同じ構造だ。
 欧米を中心とした先進国の無力さが明らかになっていくにしたがって、世界の主役は変わっていくだろうし、責任を取れない老人は退場していくことになるのではないだろうか。その老人が大統領候補という米国は、世代候補前の最後の瞬間を見ているのかもしれない。

 先進国というものそのものが、すっかり高齢化しているのかもしれない。いかにして世代交代を行うのか。そのことを考えなくてはいけない。

連載59(2024.4.8)

生物多様性と除草しない太陽光発電

 日本ではようやくソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)についての理解が広まってきた。10年くらい前からあるのだけれど、まだまだ積極的に開発されているというほどではない。それでも、農業関係者の間でも理解されるようになってきた。というのが、実感である。

 ソーラーシェアリングが始まった場所は、おそらく日本だと思う。始まった理由はあまり褒められたものではない。というのも、農地の安い固定資産税を適用することが目的だったのだから。
 FITの認定を受けて電気を買い取ってもらうことで、大きな収入が得られるが、太陽光パネルの下で農業が行われていれば、農業収入が得られる上に固定資産税が大幅に減免される。農業よりも売電の方が利益が出せるので、農業をおろそかにしないように、通常の80%以上の農業生産を義務付けた。
 しかし今となってはFITの新規認定による買取価格は低く、むしろPPAで電気を売るのが主流になってきている。農業でも十分な生産が行われなければ、事業として成り立たない、くらいになっている。
 また、野立ての太陽光発電所を設置する場所が少なくなってきていることも指摘される。

 その後、欧州でもソーラーシェアリングが行われるようになってきた。両面パネルを東西に向けた垂直型のソーラーシェアリングは施工しやすく、朝方と夕方の発電量が大きくなることから、それまでの太陽光発電を補完するような発電量となっており、牧場などに設置されている。この垂直型は最近日本にも逆輸入され、福島県などで設置されている。
 アメリカでは最近、800MWという規模のソーラーシェアリングができるということだ。
農業も大規模なら、ソーラーシェアリングも大規模だ。なお、アメリカではソーラーシェアリングはアグリボルトとよばれている。農業発電所といったところだ。
 そしてClean Technicaの記事では、ソーラーシェアリングは発電も含めて農業だと言い切っている。

 そして欧米で、新たなソーラーシェアリングの動きが出てきている。それは、太陽光発電の下で農作物を栽培するのではなく、むしろ雑草を育てているといってもいいだろう。
 どういうことか。
 近年、欧米では、ハチなどの昆虫類の減少が大きな問題となっている。植物の花粉を運ぶ昆虫がいなくなれば、実がならなくなる作物や果樹は多い。そこで、生物多様性を保全し、昆虫を育てる場所を、太陽光発電の下につくるということだ。したがって、基本的には雑草は伸び放題で除草はしない。日本のように除草剤を撒くこととはまったく反対の方向にある。というか除草剤そのものが昆虫を減らす原因の一つなのだが。
 そして、生物多様性保全型のソーラーシェアリングは、果樹園などに隣接して設置されるということだ。太陽光発電の下で作物を育てなくても、立派なソーラーシェアリングである。
 おそらく、ソーラーシェアリングそのものが、発電も含めて農業だという認識があるからこそ、こうした発想が出てくるのだろう。

 生物多様性問題そのものは、気候変動問題と同様に地球規模の深刻な環境問題である。生物多様性条約は気候変動枠組み条約と同時期に発効し、2年に一度のペースでCOPが開催されている。
 最近は気候変動問題と生物多様性問題は深い関係にあるとして、同時に語られることも多い。ブルーカーボンや森林保全も、CO2削減だけの取組ではなくなってきている。

 さて、日本では生物多様性保全型のソーラーシェアリングは可能だろうか。おそらく、すぐにはできないだろう。昆虫を保護するための土地を農地とみなすということからして、壁となってくる。税金の問題もあるだろう。それでも、耕作放棄地に太陽光発電を設置していくときに、無理に農業を行うのではなく、昆虫が育つような環境をつくっていくということはもっと考えられてもいいだろう。どんな植生になればいいのか、研究も必要となってくる。それでも、新たなムーブメントとして、日本でも広がってもいいのではないだろうか。

連載58(2024.3.25)

インターナルカーボンプライシングって何?

 カーボンクレジットに近い話として、インターナルカーボンプライシングというものがある。このしくみは覚えておくといい。

 どういうものかというと、会社が社内の制度としてカーボンプライシングを導入するというものだ。
 例えば、ある会社にA工場とB工場の2つがあったとしよう。
 まず、A工場でCO2排出削減の取り組みをしようと考えたとする。でもそのためには設備改修などの投資が必要となる。では、投資対効果はどのように判断すればいいのか。このときに、カーボンの価格を決めておくと、判断しやすくなる。
 カーボンの価格を1万円/トン-CO2としておく。そうすると、これ以下のコストでCO2が削減できるのであれば、投資するという判断になるし、これ以上のコストになるのであれば投資を見送ることになる。屋根上に太陽光発電をつけるのはこれより低コストなので実行するが、建物の断熱改修は高コストなので行わない、といった感じだ。
 また、A工場とB工場では、CO2排出削減のコストが違っていて、A工場の方が低コストで削減できるとしよう。A工場とB工場でそれぞれ、CO2排出削減のための予算と削減目標が決められていたとしよう。このとき、B工場はその予算でA工場から社内向けのカーボンクレジットを買ってきて目標を達成し、A工場は当初の予算に加えてB工場にカーボンクレジットを販売した分もCO2排出削減の投資に回せるということになる。結果として、この会社は同じだけの投資をしてもより多くのCO2排出削減ができたことになる。

 このしくみは、カーボンニュートラルLPガスやカーボンニュートラル都市ガスにも関係してくる。前提として、オフセットするためのカーボンクレジットが信頼性も追加性もあることは必要だが。
 ある会社において、CO2排出削減をするときに、いろいろな手段の中からカーボンニュートラルLPガスを選択するときには、その会社が決めているインターナルカーボンプライシングの価格より安いことが前提となってくる。その上で、他の手段よりも安いということが求められる。

 では、インターナルカーボンプライシングは、いくらぐらいの価格設定になっているのか。
 最低でも1万円/トン-CO2、会社によっては2万円/トン-CO2近いというケースもある。しかも、価格は年を追うごとに引き上げられていくだろう。ボランタリークレジットと比較するとけた違いに高い設定となっている。とはいえ、EU-ETSなどのコンプライアンスカーボンクレジットの価格を考えると、投資判断のツールであるということを踏まえ、決して高すぎることはない。
 Jクレジットと比較すると、省エネや再エネクレジットよりは高いが、CO2除去となる森林クレジットはやはり1万円/トン-CO2くらいの価格になっている。

 電力の非化石証書と比べるとどうだろうか。オークションの結果では、FIT非化石証書が0.4円/kWhとなっているが、これはカーボンにすると1,000円/トン-カーボンとなる。追加性がないとはいえ、オークションで取引される非化石証書は安い。
 ところが、PPAなどで相対取引されている非化石証書の価格は、3~5円/kWhとなっているという。追加性があるゆえに、高いということだ。そうするとやはり、1万円/トン-CO2に相当してくる。
 最後にGXリーグにおける排出量取引はどうなるのだろうか。実は、参加企業が排出量を売る場合、2030年の日本のCO2排出削減目標(正確には温室効果ガス排出削減目標なのだけれど)に沿った形でのベースラインより減らした場合に限り、売ることができる、ということだ。2030年の削減目標は2013年比マイナス46%なので、かなり高い目標だ(と、考えられている)。したがって、相応の削減には相当のコストがかかることが予想される。

 大手企業はCO2排出削減手段の1つとして、インターナルカーボンプライシング制度を導入するところも出てきているわけだが、さらにこの制度は取引先にも要求されることにもなるだろう。同じ考え方を適用すれば、取引先のCO2排出削減にあたっても、同程度の価格上昇は認めてもいいということにもなってくる。
 言うまでもないが、LPガス会社や都市ガス会社もそうした取引先になるということだ。

連載57(2024.3.7)

カーボンクレジットの限界

 カーボンクレジットといっても、いろいろなものがある。そのうち、ボランタリークレジットについては、「クレジット創出のプロジェクトが適切に運営されていない」などの問題が起きており、信頼性がゆらいでいる。
 一方、コンプライアンスクレジットはEUやその他の国の制度に基づいて発行されており、信頼性はあるものの、価格は安くはない。そして、それぞれの国や地域が温室効果ガスの排出削減目標を引き上げるほど、値上がりする可能性が高い。
 それでもカーボンクレジットには、経済合理性があり、温室効果ガスの削減をしやすいところから行っていく、というメリットがある。

 一般的に、日本においてカーボンクレジットは、他に温室効果ガスの削減手段が難しい場合に使われている。代表的なものとして、出張における旅客機の排出するCO2のオフセットがある。熱源としてガスを使う場合の、カーボンニュートラル都市ガス・LPガスは、言うまでもないが、他にもセメントや鉄鋼の生産など、CO2の排出が避けられない分野は多い。鉄鋼の場合、高炉で1トンの鉄を精製すると、2トンのCO2が排出される。
 また、電気のようにCO2排出を削減しやすい分野では、カーボンクレジットはあまり使われない。イベントなどでJクレジットが使われることはある。しかし日本では優先的にPPAなどの追加性のある再生可能エネルギーの利用が評価され、追加性のない再生可能エネルギーや「実質再生可能エネルギー」の電気の供給を受けることが次善の策となる。

 こうしたカーボンクレジットだが、カーボンニュートラルな社会に向けて、さらにその内容も変化していく。
 Jクレジットを例にすると、現在、省エネ、再エネ、植林の3種類のクレジットが発行されている。このうちでも植林・森林管理のクレジットが最も高く、発行量も少ない。
 しかし、価値は植林・森林管理のクレジットの方が高い。なぜならば、省エネはCO2排出抑制であり、再エネもその分だけCO2排出をゼロにする、ということに対し、植林は大気中のCO2を吸収している。つまり、カーボンマイナスになっているということだ。
 これは、プロジェクト由来のカーボンクレジットにおいては共通することで、海外のボランタリークレジットや日本が進める二国間クレジットも例外ではない。

 では、カーボンニュートラルな社会が近づいてきたらどうなるだろうか。
 電気については、基本的に再エネや原子力など、CO2を排出しない電源が一般的になっており、そこで再エネによるクレジットを創出する余地はない。
 これは、基本的に燃料も同様だ。したがって、電気やカーボンニュートラルな燃料についていくら省エネしたところで、CO2排出が削減されるわけでもない。
 そうなると残るのは、植林のように大気中のCO2を吸収するプロジェクト由来のクレジットとなる。だが、前述のように、植林・森林管理のプロジェクトによるクレジットの価格は高い。それだけではなく、クレジット発行後のモニタリングも必須だ。

 そうした中、最近注目されているのが、DACCSやBECCSだ。
 DACCSというのは、直接大気中からCO2を回収し、地中に埋める技術だ。比較的有名なのが、スイスのクライムワークス社が、アイスランドで地熱発電の電気を使ってCO2を回収する実証試験を行っていることだ。地熱発電だからCO2が排出されないようなものの、それでも大量のエネルギーを使う技術だ。
 BECCSは、バイオマス燃料を燃やしたときに発生したCO2を回収して地中に埋める技術だ。元々バイオマス燃料はカーボンニュートラルなので、そこから由来するCO2を回収すればカーボンマイナスとなる。
 この他にも、植物をそのまま、ないしは炭化させて地中に埋めるということも検討されている。
 こうしたカーボンマイナス技術によるプロジェクトであれば、2050年になってもカーボンクレジットを発行することができる。また、実際に2050年の時点で使えるカーボンクレジットがCO2除去のプロジェクトによるものだというのが、世界的な認識となっている。
 だが、CO2除去のプロジェクトはCO2削減コストが大きいため、結果的にカーボンクレジットも高価なものとなるだろう。そうなると、利用できる場面が限られてくる。

 つまり、こうしたことが、カーボンクレジットの限界なのだ。CO2排出削減による安価なクレジットがいつまでもあるわけではない。
 カーボンクレジットを使ったカーボンオフセットは、2050年までの時間稼ぎくらいに考えるべきなのだ。

連載56(2024.2.22)

ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジット

 前回は、カーボンクレジットのうち、ボランタリークレジットの信頼性が下がっているという話をした。でも、だからといってクレジットに意味がないわけではない。
 本当にCO2が削減されているのであれば、そのコストをクレジットの形で負担をするのは、経済的に合理性がある。
 例えば、今現在、日本の多くの家庭ではLPガスや都市ガスが使われている。給湯や調理の熱源となっているわけだが、これらをただちにIHクッキングヒーターやエコキュートに置き換えていくことにはコストがかかる。それも、使う世帯によってコストが異なる。一人暮らしの世帯にエコキュートを入れても、それほど使われないだろうと考えると、同じコストでより多くのCO2を削減できるところにお金を使った方がいい。
 そこで、例えば公共施設などで省エネプロジェクトを実施し、Jクレジットを発行した上で、CO2排出を削減したいお客様にJクレジット利用のカーボンニュートラルLPガスを供給することは、有意でCO2排出削減となる。
 これは、適切に認証し、モニタリングが実施されている限りにおいては、ボランタリークレジットでも同様である。
 そしてもう一つ大事なことは、クレジットのトレーサビリティである。すなわち、どのようなプロジェクトを通じて発行されたのかを、明示しておくことが、クレジットの信頼性につながる。同時に、プロジェクトの質も問われてくる。

 カーボンクレジットには他に、コンプライアンスクレジットがある。これは、排出量取引などの制度に対応したクレジットで、基本的には政府が発行する。
 代表的なものが、EUの排出量取引制度でのクレジットだ。EUでは発電所や鉄鋼所などに、CO2排出量の割り当てがなされており、事業所のCO2排出量がこの割り当てを下回った場合にはカーボンクレジットとして売却することができる。
 EUにはカーボンクレジットの取引市場があり、原油などのように市場価格がある。ロシアによるウクライナ侵攻で発電用石炭の使用が増加したときは、市場が高騰し、100ユーロ/CO2-トンを超える価格となっていた。最近は石炭の需要減で60ユーロ/CO2-トンぐらいまで下がっている。ただし、それでもボランタリークレジットの平均的な価格よりははるかに高い。
 日本では今後、GXリーグ(日本でCO2排出削減に取り組む企業群が協働するしくみ)に対応したクレジットが発行される見込みだ。GXリーグに参加した企業が、政府目標(2030年CO2削減46%)相当を下回った場合にのみ、クレジットを売却することができる。GXには強制力はないので、準コンプライアンスクレジットといったところだろうか。
 ただ、コンプライアンスクレジットは制度に参加している主体しか利用できない。
 日本ではEUの排出量取引に対応したコプライアンスクレジットを伊藤忠商事が扱いはじめたが、だいた1万円/CO2-トンくらいだ。また、GXリーグのクレジットも、CO2削減の要件が厳しいので、同じくらいの価格になるだろう。
 でも、それがCO2排出削減の現在のコストでもあるとするならば、ボランタリークレジットもこうした価格に近づいてくるだろう。実際に、Jクレジットも値上がりする傾向にある。社会のCO2排出量が削減されていくほど、省エネのコストが上がるからだ。例えば、電気の標準的なCO2排出係数が小さくなるほど、再エネを利用したときに削減されるCO2の量は少なくなる。
 そうだとしたら、カーボンニュートラルLPガスも毎年値上がりしていくことになる。そしてある時点で、LPガスよりも他のエネルギーを使った方が安くなるようになれば、LPガスを使わなくなる。こうしたことが、2050年のカーボンニュートラルに向かって、少しずつ進んでいくことになる。

連載55(2024.2.7)

カーボンニュートラルLPガスとカーボンクレジット

 脱炭素社会に向けて、カーボンニュートラルLPガスやカーボンニュートラル都市ガスが登場している。こうしたガスを使えば、需要家のCO2排出量を削減することができる。というか、削減したように算定することができる。でも、本当にカーボンニュートラルなガスになっているのか、問題はないのか、そもそもどのようなしくみでカーボンニュートラルになっているのか、実はあまり理解されていないのではないか。そんなことを思わせることがあった。

 まず、カーボンニュートラルLPガスのしくみについて説明しておこう。
 これは、LPガスを燃焼したときに排出されるCO2を、別の場所で削減しておく、というしくみだ。そして、このしくみに使われるのが、カーボンクレジットである。
 カーボンクレジットとはどのようなものか。例えば、植林をしたとしよう。植物が成長するにしたがって、大気中のCO2を吸収してくれる。つまり、植林によってCO2が減っているということになる。その減った分を、カーボンクレジットというものにする。
 CO2を減らす事業は植林だけではない。省エネや再エネのプロジェクトも、“今のところ”クレジットの発行ができる。ガス田のフレア除去もクレジットの発行対象になっている。
 そして、カーボンニュートラルLPガスは、燃焼したときに排出するCO2を、あらかじめ植林などによるカーボンクレジットで相殺してある、ということだ。

 とはいえ、実はカーボンクレジットにはいろいろな種類がある。大きく分けて、ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジットだ。ボランタリークレジットは、CO2削減について第三者認証を経てクレジット化したもので、第三者認証機関にはいろいろなものがある。一方、コンプライアンスクレジットというのは、EUの排出量取引制度など法制度に対応したクレジットになる。
 ボランタリークレジットにはいろいろな種類があるが、一般的に海外で認証されているものが比較的安く流通している。しかし、このクレジットでCO2排出を削減しても、日本のCO2排出削減にはならないことには要注意。
 日本で認証されているクレジットには、Jクレジットがある。この場合、日本でCO2を削減しているので、日本のCO2排出削減になる。
 この他に、日本と他の国で協調してCO2を削減する二国間クレジットというものもあり、これも日本のCO2排出削減になる予定だ。

 ボランタリークレジットは比較的安く、CO2-トンあたりで、数百円から数千円の範囲にある。Jクレジットは比較的割高で、数千円から1万円程度のものまである。
 これに対し、コンプライアンスクレジットは最低でもCO2-トンあたりで1万円は超える。
 そんなわけで、最近までは、ボランタリークレジットの利用が増えていた。しかし、最近になって、その利用にブレーキがかかっている。なぜなら、クレジットを創出するプロジェクトそのものの信頼性がゆらいでいるからだ。
 わかりやすい事例としては、植林プロジェクトがある。植林して木が成長すればCO2は削減されるが、クレジット発行後に伐採してしまえば、CO2はまた大気中にもどってしまう。これではクレジットは意味をなさない。信頼性のないクレジットは、誰も使おうとしなくなっている。
 とはいえ、クレジットの課題はそれだけではない。とはいえ、カーボンニュートラルLPガスに意味がないわけでもない。ちょっと長くなるので、続きは次回に。

連載54(2024.1.22)

今年の再エネのトレンドは24/7なのである

 24/7と言われても、だいたいの人は何のことだかわからないですよね。
 これは、24時間/一週間という意味。日本でいえば、24時間365日といったところです。
 そして、再エネを24時間365日供給するサービスが、これから求められてくる、ということなのです。

 現実の話をすれば、とりあえず太陽光発電を設置して使っています、というのが一般的な話だと思う。コーポレートPPAというサービスも普及してきているし、長期契約が可能なら初期費用抜きで太陽光発電が使えるようになってきました。
 そして、最近の話題は、バーチャルPPAというものです。これは、非化石証書だけを購入し、使う電気を全量「追加性のある」再エネにする、というしくみです。この場合、電気は市場で売ったりするので、差金決済というめんどくさいことも必要になるのですが、日本では村田製作所が利用するなどの事例が登場しています。

 米国ではPPAといえばバーチャルPPAが主流でした。REC(再エネクレジット、日本でいう再エネ指定の非FIT非化石証書といったところでしょうか)を利用して実質再エネとして利用しています。
 しかし、結局のところ、バーチャルPPAだけが普及してしまうと、他の需要家に対して火力発電の電気が集まってしまうことになります。
 本当にCO2を出さないのであれば、24時間365日、再エネ発電が供給されるべきではないか、ということになります。そのため、米国ではGoogleなどが実際にこうした形での電力供給を受けていますし、24/7carbon free compactといった国連での運動も進んでいます。もっとも、24/7では再エネにこだわっておらず、原子力も含めているのですが。

 なぜ、24/7かといえば、さきほどちらっと書いた「追加性」に関係があります。現在の電力システムを維持したままでは、太陽光発電の導入量には限界があります。夜間の電気はまかなえません。したがって、バーチャルPPAのような方法で非化石証書を独占しては、再エネの導入の限界を超えず、結果として「追加性」に疑問が生じてしまいます。
 つまり、電力システムが再エネの主流になっていくような変化をうながしていく、そういったしくみが必要になるということです。

 とはいえ、24/7を実現するのは簡単ではありません。Googleでは、太陽光発電や風力発電、地熱発電など複数の再エネを組み合わせて実現しています。
 しかし、太陽光発電と風力発電以外の再エネの大幅な増加は難しいでしょう。そうなると、蓄電池の活用が必要になってきます。
 すでに、パワーXという会社が、24時間太陽光発電供給の顧客の募集を開始しています。25円/kWh~という価格は、現在のフィジカルPPAよりは高いものの、一般的な高圧の電気料金+非化石証書の価格を考えると、悪くないようにも感じます。
 パワーXの場合、蓄電池を安く供給することが可能という前提があってのことですが、蓄電池そのものは値下がりを続けており、他社もこうした事業に参入してくると予想されます。

 それでも、蓄電池だけで24/7を実現するにはコストがかかりすぎます。充放電の損失がありますし、そもそも蓄電池もなるべく小さくしたい。したがって、需要側でも電気の使い方を変える必要があるし、太陽光発電以外の再エネを組み込むことも必要でしょう。
 そうであっても、24/7であれば、「実質再エネ100%」といった電気やバーチャルPPAよりもよほどわかりやすいといえます。

 というわけで、今年は24/7が本格的に話題になると思います。でも、それだけではありません。短期的には、低圧太陽光発電所に蓄電池を併設していくことが増えていくと思います。FITの発電所をFIPに転換して蓄電池を設置するという取組みが一部で行われていますが、新規の発電所は蓄電池併設があたりまえになってくる、ということも見えてきます。
 そして長期的には、2032年以降の事業用卒FIT発電所の蓄電池併設リパワリングということが視野に入ってきます。さらに、同時に電気料金を安くする24/7向けのエネルギーマネジメントが求められるようになるでしょう。

 2024年は、こうした新しいサービスの開発がトレンドになってくると予想しています。

連載53(2024.1.9)

グレイスラム

 あけましておめでとうございます。
 と言いたいところですが、能登半島地震やウクライナやガザを考えると、あまりそんな気にはなれないですね。
 フランスではまた洪水が起きているし、少し前はドイツでも洪水でした。気候変動は確実に深刻化していますが、昨年末のCOP28の成果は乏しかったと思います。
 今年は第7次エネルギー基本計画の議論が行われると思います。どのような計画になるのかは、エネルギー事業者には大きな影響があるでしょう。LPガス事業者への影響はまだ少ないと思いますが、他方でEV化は加速していくので、ガソリン需要がさらに減少していくのはまちがいないでしょう。2035年温室効果ガス66%削減、という数字が予測されます。2013年から3分の1に減らすというのは、大変なことです。
 未来を考える上では、見たくない現実を正視することも必要かもしれません。

 今年1月4日の日本経済新聞の酒紀行というコーナーで、グレイスラムが紹介されました。沖縄県南大東島でラム酒を醸造している会社で、創立20年になります。
 この会社、沖縄電力のベンチャー募集制度で、当時アステル沖縄の社員だった金城さんが応募し、設立した会社です。南大東島ではサトウキビを栽培しているのですが、それを原料に、さっぱりとした、それでいて味わいのあるホワイトラムを醸造しています。

 20年前といえば、自由化に対応する一環として、電力各社が社内ベンチャーの育成を行っていた時期でもあります。筆者もさまざまな電力発のベンチャーを取材しました。農業の会社やホームセンター、高齢者福祉施設など、さまざまな会社がありました。これも、事業ポートフォリオを拡大する一つの手段です。
 しかし、現在も残っている会社はほんのわずかしかありません。ベンチャー企業とはそういうものかもしれないのですが。

 グレイスラムも最初から順調だったわけではありません。独特のフレッシュなホワイトラムは、決して価格が安いわけではなく、販路の拡大は苦労したと思います。アルコール度数を下げた商品を開発したりもしています。また、2010年には筆頭株主が沖縄電力からヘリオス酒造に代わっていますが、そこにも理由があったのでしょう。
 それでも、20年たって、ラム酒のメーカーとしての評価は確立したといえます。

 それまで沖縄ではラム酒を醸造していなかったのですが、その後、伊江島でもイエラムの醸造が行われています。
 これもまた、エネルギーに関係しています。というのも、NEDOの実証試験で、伊江島で自動車の燃料用アルコールの醸造を行っていたのですが、実証試験後、その設備を活用してラム酒の醸造を始めたということです。
 確かに、ガソリンよりもお酒の方が高く売れますからね。

 電力発のベンチャー企業の多くが撤退している中で、グレイスラムは現在も事業を継続し、ラム酒をつくっている。そこには、少なくとも新規事業を失敗に終わらせなかった要因がいくつもあるのだと思います。  それは、じっくり考えてみてもいいかもしれないと思っています。

連載52(2023.12.21)

みんなが集まるところに答えはない

 エネルギー事業に話を限っても、本当に価値があって持続可能な事業は、みんなが集まるところにはない。
 よくラグビーのモールに例えるのだけれど、そこに入っていくよりも外側にいた方が、どこからボールが出てくるのかがよくわかる。いや、ラグビーにおいてはモールは大切なのだけれど。
 あるいは、中学生の体育の授業でのバスケットボールといえばいいだろうか。みんなゴールを入れられないまま、ボールを奪い合う。

 例えばVPP(仮想発電所)という事業がある。もう何年も前から、住宅用蓄電池などを使ってVPPをやろうとするのだが、少しももうからない。
 今だったら、アグリゲーターだろうか。新しくライセンスができたのだけれど、今はそれほど大きな事業にはなっていないのではないか。
 もっとも、アグリゲーターの今の大きな事業は系統用蓄電池だ。しかし、明確な事業モデルが描けないまま、事業化を進めている。
 需給調整市場で利益を出しているという話もあるし、長期脱炭素電源オークションでリスクを低減できるというが、その場合はリターンが少ない。

 かつて、FITを使った太陽光発電事業が隆盛を極めた。これはさすがに、官製フリーランチともいうべきもので、たくさんの事業者が利益を得たと思う。しかし、持続可能な事業になっているものはどのくらいあるのだろう。利益を得た人たちは、発電所を高値で売却してしまっているのではないか。

 カーボンクレジット事業も同じだ。
 CO2排出を相殺できる便利なクレジットには需要がある。2030年に向けて市場は10倍以上拡大するという予測もあった。
 筆者はそう単純には考えていなかった。そこで言われていたのは、安価なボランタリークレジットだが、実際にはクレジットに信頼性がなく、より高価なコンプライアンスクレジットに関心が集まってきている。それはまったく別のスキームだ。
 おそらく非化石証書も同じ運命をたどるのではないか。

 冷静に考えれば、VPPが本当に必要になるには、もう少し時間がかかる。まずは再エネ発電所の出力制御を回避するために、既存の設備でできるところまでいってから、VPPの出番となる。
 アグリゲーターが真価を発揮するのは、2032年の事業用発電所卒FITを待つ必要がある。
 系統用蓄電池は運用益が市場に左右されるので、それを固定する手段が必要だし、だから米国カリフォルニア州では蓄電池が増加しても系統用蓄電池は減少している。
 カーボンクレジットに求められるのは追加性だ。それが担保できないクレジットは駆逐されていく。

 では、メタネーションやアンモニア火力やCCUSはどうなのか。冷静に考えると、少なくとも主役ではないだろう。

 現在と将来の技術、それとコスト、需要、さらに地球環境と人口構成、そういったものを冷静に考えたとき、たぶん、多くの人が集まっているところには答えはない。
 日本人は横並び主義と言われているし、その結果、人がいるところに集まってしまうのかもしれない。
 けれど、行列のできるラーメン屋が必ずしもおいしいわけではない。
 冷静になって10年後を考えてみることは、この国においては、もっともっと必要かもしれない。

連載51(2023.12.6)

COP28とグローバルストックテイク

 11月30日から、UAEのアブダビでCOP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)が開催されている。産油国で開催されるCOPゆえに、脱炭素がゆるいのではないか、と考える人もいるだろう。しかし、UAEは最先端の再エネ事業がある国でもある。
 マスダールシティはカーボンゼロを前提として開発された都市だ。そして、この都市で開発された技術を世界に展開する企業としてマスダールが創設されている。
 産油国も、いつまでも石油産業が続くとは思っていないのだ。むしろ、今のオイルマネーを脱炭素技術に投資しているといっていいだろう。

 さて、今回のCOP28の中心となるテーマは、グローバルストックテイク(GST)というものだ。これは、5年ごとに行われる、世界全体の温室効果ガス排出削減に対する評価だ。そしてこの評価をもとに、次の各国の削減目標が検討される。
 すでに、GSTの議論はおよそ1年にわたって行われてきた。その評価を、今回のCOP28で合意する、ということになる。

 GSTのおおまかな結論というのは見えている。2030年の各国の温室効果ガス排出削減目標は、十分ではない上に、それを実現するための政策措置も十分にとられていない。したがって、まだまだ温室効果ガス排出削減は進めなくてはいけないし、それどころか、削減が遅れた分だけ、今後は急激な削減が必要となってくる。
 今年のG7環境相サミットでは、2035年の温室効果ガス排出削減は2019年比60%削減ということで一致したが、実際には先進国は80%削減が必要なのだ。

 では、どのようにして温室効果ガス排出削減を進めるのか。あらゆる手段、ということになるが、今回のCOP28では、いくつかの取組みが出てきている。
 一つは、再生可能エネルギーを2030年までに3倍に増やすこと。これは日本も賛成している。ただし、日本は3倍にするのではなく、せいぜい2倍。残りは途上国で増やしていく。二国間クレジットなどのしくみを使うことが想定されている。
 原子力も3倍にするということで、日本を含む20か国が合意している。二酸化炭素を出さないのであれば、原子力にも頼りたいといったところだ。ただし、現実には、中国など共産圏が増やすことになるだろう。原子力はコストがかかりすぎる。期待された小型炉でさえ、先日、唯一型式認証を米国で取得した計画が中止になったばかりだ。
 そして、メタンの削減。これはガス田や炭鉱、パイプラインから漏洩するメタンを削減するということで、比較的対応しやすい。

 日本が参加しないのが、石炭火力発電所の削減だ。もう新規の発電所は建設しないとして、その先には既存の発電所の段階的廃止も行われてくる。
 日本はアンモニアを燃やすことで、石炭火力を延命させる方針だ。ただし、将来はグリーンアンモニアを燃やすとしても、直近の実証では天然ガス由来のグレーアンモニアの混焼をおこなっており、実はこれで二酸化炭素の排出は増えている。
 日本にはまだ運開したばかりの石炭火力発電所もある。そういった事情で、石炭火力の廃止にすぐに進むことはできないが、国際的な圧力は高まっていくだろう。

 いずれにせよ、GSTが示すのは、今後さらに温室効果ガス排出削減は厳しいものにせざるを得ないし、その削減も、対策が遅れてしまったがゆえに、急激な削減が求められるというものだ。

 今年は観測史上、地球の平均気温が最も高かった1年になるだろうと言われている。予測値では、平均気温よりも1.8℃も高いということだ。その結果、各国で旱魃による山火事や洪水が発生し、日本でも厳しい猛暑となった。
 ただし、その原因はエルニーニョなども関係しており、通常であれば1.2℃上昇といったところだろう。
 しかし、地球が温暖化すれば、今年以上の猛暑が通常となる。そこでエルニーニョが発生すれば、平均気温は2.5℃くらい上昇してもおかしくない。そういった未来が目に見えてしまうからこそ、温室効果ガス排出削減も急速に進めざるを得ない。
 地球の限界が迫っているというのは、決して大げさな話ではない。エネルギー事業に関わるものは、そのことを将来像に織り込んでおく必要がある。